1 弁護士法人は法人格あり、法律事務所は法人格なし!
最近では、インターネットはもちろん、テレビやラジオでも弁護士が出している広告を見かけることが増えてきました。YoutubeなどのS N Sでも精力的に活動している弁護士も多いですね。
弁護士の広告をみたり、弁護士を探そうと思って検索したりすると、「○○法律事務所」、「法律事務所○○」、「弁護士法人○○」、「○○弁護士法人」、「弁護士法人○○法律事務所」、果ては「弁護士法人○○ □□法律事務所」のような表記を見かけると思います。要するに、大きく分けると、弁護士が所属する事務所については、「法律事務所」と「弁護士法人」の2種類があるということです。「弁護士法人○○ □□法律事務所」形式のものは弁護士法人に分類されます。
さて、弁護士法人と法律事務所、何が違うのかという点ですが、結論を一言で言えば「法人格があるか否か」です。弁護士が作った法人が弁護士法人で、それ以外の個人事業主としての弁護士やその集まりが「法律事務所」です。
このコラムでは、なぜこのような使い分けをするのか、法人格の有無で弁護士や依頼者にメリットデメリットが変わるのかを検証していきたいと思います。
2 何故「弁護士法人」と「法律事務所」なのか
そもそも弁護士が所属する事務所や団体の名称が、なぜこの2つに分類されるかというと、弁護士が事務所を設ける場合には、「法律事務所」と称することになっており、弁護士法人の場合には名称中に「弁護士法人」という文字を使用しなければならないことになっているためです(弁護士法20条1項、30条の3)。
(法律事務所)
第二十条 弁護士の事務所は、法律事務所と称する。
(名称)
第三十条の三 弁護士法人は、その名称中に弁護士法人という文字を使用しなければならない。
弁護士法
そのため、法律事務を営む株式会社を作って「株式会社○○」と称するようなことは許されません。また、「○○研究所」とか「○○相談所」のような名称にすることも不可です。分かりやすく思える「○○弁護士事務所」もN Gです。
このような表記をしたいのであれば、「弁護士法人○○研究所」とか、「○○相談所法律事務所」、「弁護士法人○○弁護士事務所」のような表記にしないといけない、というわけです。
また、「法律事務所」と「弁護士法人」という名称は、法律上、弁護士しか用いてはいけないことになっています(弁護士法74条1項)。
(非弁護士の虚偽標示等の禁止)
第七十四条 弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。
2 弁護士又は弁護士法人でない者は、利益を得る目的で、法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載をしてはならない。
3 弁護士法人でない者は、その名称中に弁護士法人又はこれに類似する名称を用いてはならない。
弁護士法
このため、弁護士以外の法律関係士業(行政書士、司法書士等)が「弁護士法人」はもちろん「法律事務所」を名乗ることも法律違反となってしまいます(違反すると百万円以下の罰金という刑事罰もあります。)ので、他の法律系士業では「法務事務所」のような表記がされることも多いです。
3 弁護士法人と法律事務所の実質的な違いやメリットは?
(1)支店を出せるかどうか
先ほど弁護士法人と法律事務所の違いは法人格の有無であるといいましたが、もう一つ法的な違いとして、「支店を設けられるか否か」があります。論理的には、法人だから支店を出せるとか個人事業主や組合だから支店を出せないということはないはずですが、法的には、弁護士は支店を出せないのが原則であり(弁護士法20条3項)、弁護士法人に限り支店を出せるという構造になっています。
(法律事務所)
第二十条
3 弁護士は、いかなる名義をもつてしても、二箇以上の法律事務所を設けることができない。但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない。
弁護士法
なぜこのような規制があるのかというと(私にはさっぱり分からないのですが)、過当競争を防止して弁護士の品位を保持するとか、非弁の抑制のためなどといわれているようです。
他方で、弁護士法人なら二箇所以上の法律事務所を設けることができますよという明文があるわけではないものの、弁護士法人であれば従たる事務所を出せるということを前提とする「本店」や「主たる事務所」、「従たる事務所」などの表現を含むいくつかの規定(弁護士法30条1項2号、30条の9、30条の17等)により弁護士法人は当然に二箇所以上の法律事務所を設けることができると考えられています。というか、支店(従たる事務所)を設けられるようにするために弁護士法人という制度が弁護士法の中に組み込まれたといっても良いと思います。
というのも、1949年(昭和24年)に成立した現在の弁護士法の中で、弁護士法人というのは2001年(平成13年)の改正で盛り込まれた比較的新しい制度であり、その趣旨は、リーガルサービスを十分に市民に届けるためには、支店のように複数の事務所を持てる方が良いだろうという点にあります。
もう少し固い表現で言うと、「弁護士業務の専門家・総合化・分業化を促進して質の高い法的サービスを国民に安定的・継続的に供給する道を開くとともに、複雑多様化・国際化している国民の法的需要に応えること」にある、らしいです。「専門家・総合化・分業化」という異なる方向性のものをまとめて実現してしまおうという意欲的な改正ですね!法人化するとなんでこれが達成できるのかは分かりませんが・・・
(2)弁護士からみた弁護士法人のメリット
いずれにしても、弁護士にとって弁護士法人の最大のメリットは、弁護士法20条3項の規制にかかわらず支店を堂々と出せるという点にあることは間違いないと思います。逆に、弁護士からすると、それ以上の弁護士法人のメリットはほぼないといって良いでしょう。法人にしてしまうと、役員報酬は定期同額でないと損金参入できないし交際費も法人全体で上限が定められてしまうなど、節税という観点や報酬の柔軟性(儲かったときには報酬を大きくしたい、苦しいときには小さくしたいといった要請)という観点からは個人事業主に敵わないからです。実際、大手事務所が既存の法律事務所を維持したまま同一名称の弁護士法人を作り「共同事業」として支店を作っている例がありますが、これはまさに支店を出したいけど個人事業主としての柔軟性を失いたくないという気持ちの現れだと思います。
弁護士ではない通常の経営者が個人事業主から株式会社にする場合の法的なメリットは、経営リスクを個人で負わないようにできるという点にあります。つまり、自分と別人格の法人格を持った会社が全ての債務を負担することで、仮に経営が失敗しても自分が全ての債務を負担する必要はなく、会社だけ破産すれば良いということです(実際は連帯保証などがあり、事実上会社と社長は一蓮托生であることも多いですが。)。
しかし、弁護士法人の場合、社員である弁護士は、無限責任といって法人の債務を返済する義務を弁護士個人でも負うことになっていますので、このようなメリットは享受できません。
(3)市民から見た弁護士法人のメリット
他方、弁護士のサービスを利用する市民からすると、どうでしょうか。
まず、近くの弁護士に依頼できる可能性が高まるという点ではメリットがあるといえると思います。また、法人の永続性や、経営基盤の安定性などから、個人の弁護士に何かあった場合のリスクヘッジ的な意味を見出すことができれば、それもメリットと言えるかもしれません(あんまり、考えすぎない方が良いと思いますが。)が、実際のところ、良い弁護士に出会えるかどうかは運の要素も多分にあり(なので弁護士に依頼する場合は、よほどビビッときた場合を除いて少なくとも2人以上の弁護士に相談することをお勧めします。)。
なので、正直、弁護士に相談したり依頼する場合に、その弁護士の所属先がただの法律事務所なのか弁護士法人なのかはそれほど気にする必要がないと、私は思います。
4 なんで弁護士法人にしたの?
以上の通りで、弁護士法人か法律事務所かは、利用する側からするとそれほど気にする必要はありませんし、弁護士からすると、支店を出したいというニーズがない限りは法人化する必要もありません。
でも、実は、支店を持たない弁護士法人もたくさんあるんですね。
これはどういうことなんでしょうか?
かくいう私たちも、支店を出す具体的な計画もないまま、独立と同時に「えそら」を弁護士法人にしています。
支店をもたなくても法人化する目論見は各人各様だと思いますが、私たちの場合は、従業員(弁護士含む)が厚生年金に加入できるという福利厚生的な意味合いと、会計の透明性確保の観点から、最初から法人化することにしました。やはり、法人という団体としての決算があるというのは、個人事業主の集まりである組合よりも会計の透明性がありますし、何よりその配分(役員報酬や従業員賞与等)についても分かりやすいので、最初から法人として設立をしました。
このような理由以外にも、弁護士法人の方が信頼があると見てもらいやすいと考えている場合や、当面の間は消費税の節税になるとか損金を7年繰り越せるなどの税制面にメリットを見出している場合、法人の永続性にメリットを見出す場合、いつか支店を出したくなったときにすぐに動けるようにしておくなどを考えて弁護士法人を選択しているケースもあるでしょう。
ただ、繰り返しになりますが、いずれにしても弁護士法人にするメリットデメリットはほとんどの場合は弁護士側に関わるもので、利用者側からすると弁護士法人かどうかというのは弁護士選択の際にあまり意味のある要素ではないので、弁護士法人なのか法律事務所なのかは気にすることなく、まずは相談してみて、実際に相談した弁護士個人を信用できそうか、相性が良さそうかという点を判断することをお勧めします。
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